中学校の歴史の教科書には載っていなかったものの、副読本の年表には小さいフォントでつつましく載っていた「アテルイの乱」の物語です。実在した人物ではあるものの詳細不明だったアザマロやモレを、それぞれアテルイの父、隣村の大巫女と想定したことで、ダイナミックな時代小説ができあがりました。文庫本の厚さゆえ購入に躊躇したものの、ストーリーの展開がおもしろく、また、登場人物の矜持ある生き方に感動し、誰しもあっという間に読んでしまうことでしょう。表向きスマートな田村麻呂も朝廷内で相当苦労したはずだぞ。
アテルイは、母屋から離れたみすぼらしい小屋で、母が山に祈りつつ生まれたことから話が始まります。いかにも山(森)から生まれた子、と象徴づけたのでしょう。しかし、これはエミシのみでなく、血の穢れゆえ母屋での出産を斎みた、前近代の日本民俗では常套的な行為です。
他にも民俗学的なエピソードがふんだんに織り込まれていますが、柳田国男の「遠野物語」や「山の人生」、中西進らが明らかにした知見を参考にした割には・・・。また、東北、特にヤマセに襲われる岩手の農業は、戦前まではイネよりも雑穀が中心であり、文中に出てくる和賀ではほんとについ最近まで3年に1年はイネが育たないという有様でした(余談ですが1日に5合もの米を食べていた宮沢賢治はたいへんな贅沢者だ)。イネが不作なら急遽ソバを植えて飢えをしのいだそうです。フィクションと割り切ればこれらは瑣末なことですが、僕的には☆4つです。