1968年から69年にかけて連続殺人を犯した19歳の少年(永山則夫)についての論考。
「まなざし」とは、表層的な属性(服装、持ち物、学歴、出生など)において、個人の総体を規定し、予料する、都市のまなざしである。
本書でN・Nと指示される少年は、分析対象としてはもちろん極端な存在であるけれども(永山則夫と違い、当時の、貧しい田舎から都市に働きに来た少年のほとんどは、人を殺すことはなかった)、見田の手にかかれば、その特殊性を通してこそ、われわれの生きる現在にまで妥当する普遍性がありありと浮かびあがってくる。
私が大学で経済学を学んでいたとき、しばしば教授から、"warm heart, cool head"(温かい心と、クールな頭脳)という格言をいただいたものだ。見田先生はまさに、こうした姿勢で日本社会を「まなざさ」れている。あふれる人間への慈愛と賛歌を表明し、かつ、われわれ読者――その社会の構成員――の心と思考を揺さぶるためにこそ、彼は冷徹な眼で社会を分析するのだ。