本書は文句なしに良書です。いや、正直言って読む前はあまり期待しておらず、図書館から借りてからもギリギリまで放置していたのですが、読み始めたらあっという間に読み終えてしまいました。
著者は科学者でも医者でもなく、タバコ産業の関係者でも学者でも法律家でもない、もと放送作家のジャーナリストのようです。しかし、徹底した取材と読みやすい文章により、タバコの健康被害やタバコ産業の卑劣なキャンペーンなど、わかりにくい問題を次々と解説し明らかにしていきます。何よりも、多くの統計的数字に対してきちんと消化し解釈している点は、著者が決して感覚だけで物を言う2流・3流のジャーナリストではないことを示しています。「タバコが存在しなければ、日本の癌患者は9万人減る」「喫煙者は平均13年間の闘病生活を余儀なくされる」など、実に効果的な数字の使い方をしていると思います。
タバコの健康被害、特に受動喫煙について頻繁に引き合いに出される平山論文にはほんの少しだけしか、エンストローム論文に至ってはまったく触れられていません。しかし、他の多くの研究が引用されており、そのことがかえって本書の信憑性を高めているような気もします。一般に医学論文は一つ一つの重みはそれほどではなく、同じような結論を呈する研究がたくさん集まってこそ「エビデンス」と呼ばれる医学的判断基準となるからです。
タバコが自然に分解されないというのは私は知りませんでした。さすがに紙と葉でできていれば土には還るだろうと思っていましたが、著者は自分で実験してそれを否定しています。40kmの海岸を1日掃除しただけで5万本の吸い殻と3000個のライターが集まったという事実だけでも、「ポイ捨てしなければいい」などという意見がいかにアホなものかわかるというものです。
その他、分煙の無意味さや健康被害者の苦しみなどについても書かれるなど大変内容は濃く、嫌煙家はもちろんのこと、喫煙者にも一読を勧めたい本です。何よりも、人類の歴史からいずれタバコは消える運命にあると結論づけているのは、正に私の意見と同じであり、大変勇気づけられた気がしました。