対象読者は、文系出身者、そしてベレ出版が得意とするところのやり直し学習者である。
全編を通して、具体的な例を初めに示してから、おもむろに概念の説明に入るので、
数式に慣れていない人であっても、無理なく読み進めることができる。
概念が必要となることのモチベーションから説き起こしているので、
定義から始まる数学の専門書に抵抗のある人でも違和感無く読むことができる。
説明もしつこいくらいに丁寧で、図版も豊富。行間は空いているのでサラッとしていて読み易い。
行列を1次変換と捉えて解説しているところが、このレベルの本にしては正統派である。
やり直し学習者は、線形代数の意味は分からなくてもよいから単位だけ欲しい
という大学生とは違って、真の理解を求めているのだろう。これに答える著者の覚悟がスバらしい。
行列の積を1次変換の合成として捕らえるから、行列の和よりも積の方が先に解説される。
行列の積の計算方法だけを教える本とは一線を画している。
基底の取替えを表す行列と1次変換を表す行列を意識的に区別している効果で、
行列の対角化の意味が取り易くなっている。
これはおそらく、線形代数を多変量解析に応用しようと考えている人を念頭においているのであろう。
文系出身の再履修者のニーズが、統計・多変量解析にあるのだから、それに合わせたシフトになっているわけだ。
著者は、行列式は数学・物理分野以外での直接的な応用が少ないとして、最終章に持ってきている。
が、むしろこの本の行列式の章は非常に特徴的である。
4次以上の行列式を扱う際に、普通は置換を定義し、偶置換奇置換から項の符号を判定するところであるが、
この本では転倒数を用いることで、置換の群論的説明を省いている。
諸学者には群論の負担が多いと判断してのことだろう。
また、行列式を模式で表現しているところも著者の工夫である。
図を用いてだが、4次の行列式を書き下してしまっている箇所は、他書に例を見ないであろう。
また、コラムとして述べられている「主成分分析」のところでは、導出にはふつう偏微分が必須かと思われるが、
これを回避して説明してしまっている。なかなか小技を使う著者である。
他、コラムの「誤り符号訂正理論」、「15パズル」も楽しく読める。