著者自身の描く来日当初の自画像は、多少謙遜はあるにしてもあまりにナイーブで、一言で言って西欧社会の落ちこぼれである。一方、当時の日本は、進駐軍の闊歩する米国の占領下にあり、戦後の復興が始まったばかりで世界の最貧国の一つ。日本人は西洋人と見ればどんな相手にでもぺこぺこ頭を下げる。そんな日本に、著者は西欧とは違う文化的伝統に基づく独特の美しさを見出し、共感を覚え、次第にのめり込んでいく。
その後、日本が復興を果たし、高度成長時代を経て、経済大国として自立。日本人が自信を深めるのにしたがって、著者は日本を愛する気持ちを失っていく。自分の掌の上で箱庭のように愛でることのできるうちは愛情が続くが自分の手に余るようになると愛情が醒めてしまう。それには著者自身の成熟もあるのかもしれない。1974年、離日時の著者は既に42歳、やり手のビジネスマンに成長していたのだった……。
一西洋人の視点で戦後日本を観察して描かれたものとしては、マーク・ゲインの「ニッポン日記」があるが、占領下の短い期間に限られており、ジャーナリストではなく、ビジネスマンとして戦後日本に関わったという点で、本書にはそれなりに資料的な価値はある。とはいえ、個人の回想録なので、主観的で事実が曖昧な記述は多いし、年代順に綴るとは言いながら、一つの時代のエピソードの中に別の時代に関する記述や後の時代の視点から見た記述がしばしば紛れ込んで判り難い点もある。
政財界人から芸術家まで著者の人脈は広く、読み物としてもそれなりに面白い。何より、ある種の日本好きの西洋人のメンタリティがあからさまになっていて面白い。