SFも推理小説も書ける宮部みゆきの筆力を感じさせる時代小説の傑作です。上下2巻に分かれますが、先が気になり一気に読みました。宮部みゆきの人物描写の巧みさと時代考証の確かさ、そして推理小説仕立ての展開が飽きさせません。
おっとりとした同心・井筒平四郎の存在が作品全体に漂うゆったり感を醸し出していますし、長屋を取り仕切っている煮売屋のお徳が狂言回し的な存在で、最初から最後まで大切な役割を果たしました。下巻に登場する12歳の平四郎の甥っ子・弓之助の天才ぶりや政五郎親分のところにいる奇才おでこの超人的能力もまた小説に深みをもたらしました。烏の官九郎が伝書鳩かわりに活躍するなど小説の醍醐味を味わいました。
深川北町の鉄瓶長屋の描写も映像を見るように鮮やかに描写してあります。藤堂和泉守屋敷の裏ですから、江戸の古地図と照らし合わせば場所がはっきりと見えてくるでしょう。
また江戸時代の町人の自治組織の町年寄、名主の下にいる差配人の存在がこの小説の鍵になっています。連帯責任制ゆえ、店子の問題に口をだすわけですが、前の差配人久兵衛、新しい差配人佐吉の存在も最後まで重要でした。
大商人の湊屋総右衛門が一方のキーパーソンですが、伝聞描写やエピソードだけでなかなか実際には登場しないのも、にくい演出でした。
小説現代に掲載されたあと、加筆訂正されていますので、連作の形をとった長編小説という珍しい形式なのも理解できます。最終章の「幽霊」のみ書き下ろしです。確かに多くの出来事をまとめるのにふさわしい登場人物でしたし、鉄瓶長屋の謂われがでてきて、なるほどそう締めるか、という展開は作者のストーリー・テラーとしての巧さを感じました。