少々高価なので購入をためらいましたが、森茉莉ファンには必読の書だと思います。「のんびりと楽天的」を標榜していた茉莉さんですが、晩年のエッセイの中にはたまに粘着質の暗さを感じさせる部分があり、この書簡集によって裏付けられた感じです。「贅沢貧乏」では「毎日空き地に行って空から一枚ずつ千円札が降ってくるのなら、何もしない」などと経済的困窮によって文筆業にはいったかのように書いている茉莉さんですが、実際に書く動機となっているのは、裏切られた愛情とか虐げられたプライドとかいう単純なものでもなく、ただ一方的に悪意や欲得の被害者となり(妄想的な部分もあるのですが)、それを美意識の隅々まで行き渡った作品世界に封じ込め転化させることで、自分に害をなすものを懲らしめ精神のバランスを取っていたように思われます。楽しい随筆と官能的な小説だけだったら森茉莉の全体像はつかめないと思いました。ぜひこの書簡集をご一読されることをおすすめします。