お馴染みの虫好き三人衆による、初心者向けの昆虫採集入門書。
名和昆虫博物館とNPO法人むしむし探し隊の協力のもと作成されており、昨夏大江戸博物館で開催された『大昆虫博』がきっかけになって出来た本のようだ。
全体は大きく4章から構成されており、昆虫採集の3つの楽しみである「捕る」「標本を作る」「見る」という側面について、それぞれ実践編、基礎編、道具編の3つの編成で具体的なテクニックや楽しみ方が紹介されており、最後に「資料・情報」の章で、文献・書籍や採集用具販売店、昆虫館、採集禁止種などが紹介されている。
まことに至れり尽くせりの構成であり、私が子供の頃にこんな本に出会っていたら、もっと虫にのめりこんでいたに違いないと思うほどだ。
無論初心者には打って付けだが、三氏それぞれの採集やら展翅・展足作業の様子や、標本保管の様など貴重な写真もあり、刺激になると言う点でベテランにも見逃せない。カラー写真も豊富で、実際どのように作業するのかその雰囲気がよく伝わって来るので、有難い。
基本となる解説は、概ね名和哲夫氏によるものだが、所々に経験豊富な三氏がそれぞれ昆虫採集のテクニックやその醍醐味を語っており、興味深い。
個人的には、池田氏の小型甲虫の標本作成手法が、ビジュアル的なイメージと共に把握できて、大変参考になった。近年視力低下を痛感する私としては、池田氏が頭につけていた拡大メガネを是非入手したいと思う。
また、養老氏のスキャニングの勧めでは、実際にスキャンされたツシマカブリモドキの写真が圧倒的に美しく、私も宝くじでも当たったら、是非スキャナーと顕微鏡を手に入れたいものだと思った次第である。
ここの所、虫を「捕る」ことと、「標本を作る」ことに偏る嫌いのあった自らの趣味の傾向に、「見る」ことの重要性を再認識させてくれた点、とても有難いことだ。
一般に、小さな虫に興味が湧かないのは、それが我々の視覚にとっては「小さすぎ」て、細部が十分把握できないからなのだと思う。いわば小さな虫は、一般人には「存在していない」のも同然なのだ。そんな中、顕微鏡やスキャナを使えば細部までくっきりと映し出されて、今まで気づかなかった虫の魅力に驚かされる。そういう意味では、先に出た小檜山賢二氏の写真集『象虫』(出版芸術社)(小さなゾウムシの姿をデジタル画像で、細部までクリアに大きく映し出した写真集)や奥本大三郎さんが訳された『虫の肖像(世界昆虫大図鑑)』(東洋書林)(昆虫の頭部の接写写真で構成する大昆虫図鑑)にも、通ずる視点だと思う。
それにしても、養老孟司氏のヒゲボソゾウムシへの入れ込みようは、尋常ではない。先の『大昆虫博』の展示でも目にしたが、養老さんの虫好きぶりを紹介したブースでは、箱一杯に小さなヒゲボソゾウムシの標本がビッシリ詰まった標本箱がずらりと並んでいて、そこには何か常人には近づき難い一種の狂気のようなものすら感じられた。しかし、養老氏が本当に見ているのは、目の前に並んだゾウムシたちではなく、その向こうに見える地史ないしは自然史なのだ。本書でも紹介された、四国の東西にその分布が綺麗分かれる2種のヒゲボソゾウムシの標本の向こうに、養老氏は四国が東西「二国」であった時代からの土地の成り立ちの有りようを夢見ているのだと思う(同ブースで、養老氏が楽しそうにグーグル・アースを使って、次に採集に向かう場所を「ここは、木が整然と並んでいるから杉の植林地で、ダメ」などと言って物色している姿を写したビデオがあり、とても印象に残った)。
そういう意味で、昆虫採集には「調べる」愉しみもある訳で、本書はその辺りもしっかりと押さえてある。
対談で養老氏は言う、「目当ての虫がいるはずのところに行って、その虫だけを捕る、いわば立体感のない採集はおもしろくないよ」
私自身、虫を捕り始めた頃の、新鮮な感動や驚きを忘れてはいないだろうか?初心に帰るという意味でも、本書を寧ろベテランの方々にお薦めしたいと思う。
尚、『大昆虫博』の公式ガイドブック『すごい虫131』(株式会社デコ)も見事な標本写真、生態写真が満載で、楽しめる(H23.9.29)。