学校の課題でイタリア語の原作を読んでいるのですが、荒瀬ゆみこさんの訳は、原作の持つ、少年らしい感性や、その短めで訥々とした語り口を上手く表現していると思います。
夏休みの課題で何か一冊文庫本を読まなくてはいけない中学生や、ほかに宿題はあるけどどうも退屈ぎみの高校生に、どこまでも広がる麦畑とうだるような暑さを思いながら読んでほしい小説です。
「B級ホラー映画やコミック雑誌が大好きな少年だった」著者も、大学で生物学の卒論が書きあがらず、代わりに書いた小説がエイナウディというイタリアの大手出版社の目にとまった、という風変わりな経歴があります。そんな人が書いた小説ですから、とても読みやすいのです。これも映画化された、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』のお好きな方にもお勧めです。
どちらの小説にも言えることですが、少年らしい無邪気さやユーモアにあふれるものの見方を通して描かれているものは、実は、彼らの背景にある大人の社会の苦しく暗い現実です。といっても、この小説は悲壮感はなく、むしろ不思議な明るさのうちに終始しているのですが、やはり、南イタリアの貧困、裏社会の秘密や暴力との接触、という重いテーマにも関わっているのです。
「著者のニコロ・アンマニーティは1966年生まれ。このお話は、作家自身がバジリカータからプーリアにかけてひろがる原っぱで車を走らせながら、荒れた土地に暮らすこどもたちのフラストレーションに触発されて、書き上げたという。」(訳者解説)
おまえだってこんな生活もういやだろう、豊かで大きな街に行きたいだろう、と父に言われてうなづいても、秘密と不安のなか、友達や泣き虫でぐずな妹には、「僕は怖くない」と言い切る少年。南イタリアの局地的な状況を越えた何かが、そこにはあります。