表題作が素晴らしい。
個人的には彼の代表作である「いま、会いにゆきます」に並ぶ傑作だと思う。
短編集ということもあり、その表題作「ぼくの手はきみのために」は1時間もかからずに読むことができる。なのに何度読んでも涙してしまう。
一度は自宅で、一度は公共の図書館で、一度はバスの中で。
自分でもなんて場所で泣いてるんだと思うのだが、実際に泣いてしまった。
とにかくヒロインである聡美の健気さ、真摯な愛情に胸を打たれる。
聡美がなんでもないことのように話すことが、本当はとんでもないことで、なぜ彼女がそんな態度をとり、そう行動したのかと考えると、どうしたって冷静ではいられない。
大きな謎もなく劇的な展開もない短い話だが、その中には世界中の美しいものや温かいものを濃縮し精製したものが詰まっている。そういう物語である。
読者はこの物語を通し、本当の愛あるいは恋を、そこに見るのである。
個人的な感想でいえば、この話のためだけに買っても全く損はしない。
短い話でここまで私を虜にした市川氏には全く完敗である。
気になる人は一度古本でも手にとって読んでみるといい。前述したとおり1時間もかからず読み切れる。そして気づけば家の本棚に新刊が並んでいることだろう。