日本版サリンジャー。庄司薫さんの小説を読むと、そんな言葉が頭をよぎります。繊細で、正直で、ユーモラスで、悲しくて、それでもどこかにたくましさもある。インチキな世界とどうやって向き合っていけばいいんだろう、ということについて真剣に悩んでいる小説だと思うのです。
この小説は”赤頭巾ちゃん気をつけて”に始まる四部作の最終作で、青年が抱く夢の壮大さとちっぽけさと、それを利用して青年たちの夢を殺そうとする大人たちの世界の対立がテーマですが、小説としてはチャンドラー的なセンチメンタルさとドライさも感じさせる地味な冒険小説になっていると思います。ちょっと一歩引いた視点の「ぼく」を主人公にして、世界を冷静に、それでいてちょっとユーモアを交えて眺めながら結局は自分自身とむきあわざるを得なくなるという筋書きをエンタテイメント風味で描く手法は村上春樹の「羊」「ダンス」「スプートニク」とかぶりますが、こちらのほうが先に書かれています。むしろ、村上春樹は庄司薫を意識してたんじゃないかなーなんて思うところもあります。
友人の死(正確には自殺未遂)によって主人公が巻き込まれる、ある小さな冒険。世界がゆらぎ、自分がゆらぎます。それでも・・・。
僕が生まれる前に書かれた小説で、僕が読んだのは21世紀に入ってからなんですけど、それでも共感せずにいられないテーマが描かれていますし、話としてもおもしろいです。ユーモアや登場人物のしぐさの繊細な描写は、とてもサリンジャー的です。でも、日本人らしさがちゃんと感じられるのが良いと思います。クライマックスは、地味だけど、ちょっと感動的な不思議な味わいがあります。
若者と、若者だった人にオススメです。素晴らしい小説だと思います。