これは久しぶりに面白いと思った聖書関連本。作家の池澤夏樹と、本人の親戚であり聖書学者である秋吉輝雄との聖書に関する対談集。秋吉氏は旧約聖書学の碩学で、新共同訳聖書の翻訳編集委員も歴任している。内容は、旧約聖書を中心にした聖書についての一般的なトピックを、池澤夏樹が秋吉氏から「聞き出す」手法で解説するもの。聖書の成り立ちから伝承、キリスト教、イスラム教との関係性、そして現代との関係等々、実に幅広く、かつ興味深く話が展開されている。
個人的に特に面白いと思ったのは、旧約聖書を記した古代へブル語には「時制」がなく、過去も現在も同一につながっているという部分。さらに、その旧約聖書がギリシア語に翻訳された際にヘレニズム文化を包含した「意訳」がなされ、結果的にギリシア的な「時制の概念」が含まれるようになったという部分。これは、後に新約聖書が誕生するに際して、決定的な影響を与えたように思われる。
また、ユダヤ人とは、その発祥から今日までの3500年の歴史において、いわゆるディアスポラ(離散)の状態にあったのが普通であるというくだりも面白かった。歴史上ユダヤ人が国家を形成したのはダビデ王朝の時代とバビロン捕囚後、そして現代の、トータルでわずか500年しかないそうだ。今もユダヤ人は世界中に離散しており、その状態は3500年前からまったく変わっていない。今なおニュー・ヨークにはイスラエル本国の人口に匹敵する数のユダヤ人が暮らしている。
いずれにせよ、聖書に興味がある人には一読をお勧めする。ただし、ある程度聖書に関する知識がないと理解するのが難しいと思うので、まずは聖書の大体の構成を学んでおく方がいいと思う。