「べてるの家」が全国的な注目を浴びたひとつのきっかけは、地元特産の昆布を売る会社をみずからの手で起こしたことだった。しかし本書によれば、その目的は「苦労を取り戻す」ためだったという。「利益のないところを大切に」「安心してサボれる会社づくり」などのユニークなモットーは、一般的な企業の発想とは正反対の右肩下がりのものばかり。こうした理念が生まれた背景には、心の病という現実から逃げずに向き合った一人ひとりの人生との格闘、および「三度のメシよりミーティング」を行うお互いの関係づくりの歴史があった。
本書には、幻覚や妄想をメンバーが競って発表しあう場面など思わず笑いを誘われるエピソードが満載され、全体にユーモラスなトーンが貫かれている。しかしそれは、「べてるの家」の存在が、近代的な昇っていく生き方に対する無言の批評となっていることをも意味している。医療・福祉関係者はもちろんながら、むしろ正常という病に侵されているふつうの人々にこそ読んでほしい1冊だ。(松田尚之)
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幻聴や妄想に関しても、孤独で将来に希望の無い中で聴く幻聴は、嫌なことばかり言って来るのに、仲間が増えて人とのコミュニケーションが豊かになってくると、幻聴にも愛嬌が出てきて、「幻聴さん」という楽しい話し相手に変わってくる、というエピソードは、とても不思議だけど納得できるような気がする。
また、この本は、べてるに暮らす人々のとても素敵な笑顔の写真や、日々の生活をユニークに再現した楽しいイラストで飾られてあって、とても親しみがもてる。
私自身、自分のうつ病と15年間つきあってきたが、この本を読んで、もう一度、「今の自分でいいんだよ」と肯定してもらったような気がする。自分の経験を「忘れたい過去」としてではなく、自分をより豊かにしてくれる「財産」として受け止めていこうと思うようになった。
ところで近眼の人は、メガネを掛けていなくても幻覚が見えるのだろうか。答えはこの本の中にある。毎年開かれる「妄想・幻覚大会」には、ぜひ一度行ってみたい。
本当に血の通った、生きた言葉が踊る、文字を通して人間の臭いが伝わる「良書」です。
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