民進党政権下での故宮博物院改革についての台湾の要人へのインタビューを中心とした1章、中国の在外文化財買い戻しをあつかった6章、最近のニュースをあつかった7章が面白く読めます。2から5章の故宮文物の流転を扱った部分は他の本も多いのでどうということもありません。
しかし、著者は、朝日新聞政治部出身の方で「イラク戦争従軍記」という著書もある人です。十三頁に「私の専門は政治・外交である」と書いています。博物館・美術館には縁のない人らしく見当外れの記述やミスリードが多すぎて読むに耐えません。
例えば、二十七頁「明、清の文物については、共産党による革命後の文物蒐集の成果もあって、北京故宮が質量とも勝っている。」とある。実のところ「量」はともかく特に「明代文物の質」「清朝宮廷文物の質」は問題になりません。勿論、北京のほうが優れている分野はあります。明末から清中期までの文人の書画です。さらに、その直後に「古代の出土品については、(中略)台北故宮は皆無に等しい。」、あれ、台北故宮にあるあの多量の青銅器は出土品じゃないのかなあ。この一頁だけで2箇所おかしな記述があります。
また、七九頁に、溥儀が故宮の書画や文物を盗んで売ったと書いてあります。実は溥儀はあまり売っていないようです。北京故宮が誇る「清明上河図巻」あれは溥儀の所持品を1949年に満州で差し押さえたときの荷物からでてきたものです。もし溥儀が持ち出さなかったら今は台北にあったでしょう。同様な物は多く、北京故宮は溥儀に感謝して当然ではないでしょうか。あげていくときりがありません。
まあ、インタビュー相手の中国人の話を鵜呑みにしているんでしょうね。例えば、181−182頁に、昭陵六駿について、上海の海外文物研究センターの陳文平が、米国人が盗んだように言っているのをそのまま無批判に書いています。実際は、1915年ごろ、陜西都督 陸建章が袁世凱に献上し、袁世凱死後、遺族によってパリとニューヨークに店をもつC.T.Looへ売られたのです。
朝日新聞記者は裏をとるということはないのか、と思っています。また、インタビューした人たちにゲラを送って間違いないかやるということをやっているのかどうかと疑っています。