春は名のみの月の宵。
川に身を投げし浪人者、田坂伝八郎は彼を救った男に新たな名と生を与えられた。
その名は伝八、その生は浮世絵師。
剣士の宿命、武士の宿業…まとわりつくそれらから、様々な事件を通じ自由になってゆくまでの物語。
…なんですが、実は伝八は狂言廻しなんですね。
普段は猫と戯れているけれど、火事ともなれば一番乗りの江戸っ子で弟子達の面倒見も良く、もちろん弟子達からも慕われる浮世絵の師匠。(13回忌に弟子・孫弟子達が70余名も集まったほど!)
そう、この作品の真の主役は歌川国芳(くによし)なのです。
後書きの「この暖かく面白い絵を描くのは一体どんな人なのか、それが国芳師匠を描くきっかけでした。調べる程に惹かれ知る程に好きになる。弟子達に愛され慕われた師匠、その魅力的な人となりを本書で少しでも感じて頂ければ幸いです。」が全てを物語っています。
パトロンである梅の屋の旦那(有能すぎる!)や内弟子の米次郎(のちの月岡芳年)と言った実在の人物や、大判三枚にすら収まりきらない『宮本武蔵と巨鯨』等の浮世絵を巧みに織り混ぜつつ、最大の虚構『伝八』のキャラクターを屹立させる。『虚虚実実』は見事!の一言。(河治和香さんの『侠風むすめ』でおなじみ、登鯉(とり)さんもチャキチャキの美少女「おとりちゃん」として登場しています。)
ちなみに。このタイトルも「(師匠が与えてくれた)別の人生を歩めたならと ひらひらと浮世を漂えたらと…」という伝八の身を切るような告白と、やや平顔だった国芳の渾名が「ヒラヒラ」だった史実の両方にかけているのでしょうね。
没後150周年でもあり「国芳」づいている今こそ、続編を切に願います。切に切に願います。
p.s.
『よく一緒に購入されている商品』に怯まないで!本作品は江戸の人情話です。時代劇や浮世絵が好きなら老若男女問わず超お勧めの逸品ですよ!!