旅とその周辺を巡る潤いに満ちたエッセイ集である。本の帯には「ひとり旅指南」とあるが、安直なノウハウ本ではない。
ドイツ文学者である筆者が上質な文章で綴った一冊で、23の小品で構成されている。とにかく出だしの文章がいい。入りがいいというのは、よいエッセイの一つの条件である。「ひとりでいるのが、どうして好きになったのだろう」「海辺は冬がいい」「利根川べりの小さな町に友人が住んでいる」など、冒頭に端正な文章が置かれている。
もちろん内容も端正で深みがある。旅先での人とのちょっとした会話、地元にゆかりのある詩や短歌、風物などが散りばめられており、エッセイを楽しむことができる。著者の蘊蓄や独特の見方が一つの文化論をつくっており、それがエッセイにさりげなく挟み込まれている点もいい。
ひとり旅の最大の悩みは宿泊場所であるが、ひとり旅を喜ばない日本旅館への批判も含め、いい宿の見つけ方や温泉のつかり方など、実際に役立ちそうなアドバイスも載っている。