ブログから出来た本だが、くだけた語り口によって深い問題を論じ、どんなテーマでも自由自在に語る内田氏には、モンテーニュのような魅力を感じる。本書の中心テーマは、若者の考え方の基調にある「自分らしい生き方」「私探し」「自己決定」「自立した人生」などへの根本的な批判。「他者に煩わされず自分の好きなように生きる」というのは、一見すると自由でよいように思われるが、実は「生きる」ことの内実を貧しいものにする。著者はそれを、レヴィナスの根本テーゼ「pour l’autre 他者のために/他者の代わりに/他者に向けて/他者への返礼として」あるいは、「贈与」(=人は自分の欲するものを人に贈与することによってしか得られない)によって基礎づける(p90,279)。現代では「隣人愛」がすたれたのは、若者が自己愛に夢中になったからではない。「本当の自分」という錯覚のせいで(=「本当の自分」だけを愛したい)、自分を愛するとはどういうことかが分からなくなり、その結果、隣人を愛する仕方も分からなくなったのだ(274)。この指摘は鋭い。評者自身は、「本当の自分」という自我概念の成立には相応の歴史的根拠があると考えるので(例えば、アメリカの哲学者チャールズ・テイラーの『<ほんもの>という倫理』によれば、カントの美学、シラー、ヘルダー、ニーチェ、フーコー、デリダと続く「ほんものの自我」の系譜がある)、内田氏のレヴィナス、ヘーゲルの線だけではやや問題が単純化されると思わないわけではない。だが、氏の鋭い洞察には学ぶところが実に多い。特に第2、6章が秀逸。