男性と女性とを明確に区別する身体的部位である「乳房」。
その乳房が有する表象、すなわち「イメージ」は、政治的・社会的に、これまでどのように扱われ、どのように操作されてきたのだろうか。
本書は、全5章で構成されており、古代ギリシャの医学思想、乳がん早期検診、戦中・戦後の日本映画、中世イタリアの宗教絵画、
そして、戦後日本のポルノ映画、この5つの側面から乳房イメージについて言及したジェンダー文化論である。
「乳房」=「授乳器官」=「子供を育む母としての女性性」に焦点を当て、
政府が「映画の中の母」を国民の戦意高揚と美談形成に利用したことを解明した、池川玲子氏の第3章、
未曾有のペスト危機に「授乳する母」=「美」「善」、「授乳できない女」=「醜」「悪」のイメージを植え付け、
絵画という形で具象化し、キリスト教布教活動への利用について言及した、新保淳乃氏の第4章、
この両名の論説が特に興味深かった。
本書の梗概を読んで、自分には縁遠いなと思った人は、少し立ち止まって、周囲を見渡してほしい。
公園や公共広場に、なぜ女の裸体像があるのか。
なぜ、彼女達は公共の場で公然と「乳房」を晒していられるのか。
こういった身近なことに疑問を持つことから、ジェンダー文化に対する問いかけは始まるのではないだろうか。