ひたすら走って、ひたすらクロスを上げ続けるサイドの宿命(作中より)
東京ではたらいていた。
がんばっていた。
けど、もう続けられない。
ただ逃げているだけなのかも知れない。
それでも気がついたんだ。
私を追いつめたのは自分自身だって…。
東京での仕事を辞めて、田舎町に移り住み自儘な暮らしを始めた女性と連れ合いの物語。
スタートラインはない。ゴールもない。イベントだってない。
橋本さんが自悟する「日常の地味な話」の枠からはみ出すことのない作品。
でも、そんな当たり前のように目の前に転がっていることを文章、そして物語にして綴る中で日常の大切なものを見せてくれます。
たとえば、冒頭挙げたクロスの話が現実にある“そういった生き方”の比喩に思えるなど。
作中で触れられているとおりこれは“読み手の勝手な思い込み”なのかも知れませんが、この一文の後に「報われない」「でもこつこつ努力するポジションを誇りに思う」と続くのだから余計にそう思えてならない。
迷うことなく人生を歩んでいる・謳歌している人には本作から感じるものはないかも知れません。
けれど、少しでも何かに悩み、迷いを抱いている人の心には響くかも知れない。