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14 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
少数者へのまなざし,
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レビュー対象商品: ひかりごけ (新潮文庫) (文庫)
はじめて読んだときには意識しなかったが、「ひかりごけ」の前半にアイヌ出身のアイヌ研究者M氏という人物が登場する。この人物の経歴から見て、彼は以前武田泰淳と北大で机を並べた知里真志保であることはまちがいないだろう。ここに知里が登場することで、あらためてここに収録されている四編に共通する主題に気がついた。武田泰淳には、辺境に住む者、異形の者、そして虐げられた者への深い共感がある。それはおそらく中国文学者であり、中国の文化・人民に深い愛情を抱きつつ、彼らを殺すものとして戦場に立たなくてはならなかった彼の体験が影響しているものと思われる。この四編に通じて流れているものは、自らを「正しい多数派」の側に置かず、少数派の論理、犯罪者の言い分をあえて共有しようとする姿勢である。 特に彼の怒りは、かたち上その少数者たちに共感するようなポーズを取る「偽善者」に向けられる。寒村での原始共産制を研究しようとする大学人に対する怒りというかたちで「海肌の匂い」では登場するこの感情は、大作「森と湖のまつり」でさらに深化されて再登場することになる。 「ひかりごけ」ではこの姿勢がストレートに提出されている。人肉食いという「倫理的に言語道断」という犯罪を無邪気に糾弾しようとする「多数派」に対する作者の倫理的糾弾は本作に現れている通りである。 文学史上に残る名作のひとつである。
3 人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
私小説論としても成立している戦後日本人の批判小説,
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レビュー対象商品: ひかりごけ (新潮文庫) (文庫)
「文学雑感」という随筆で、著者は大戦中、私小説に共感を持っていたことを語っている。「在郷軍人会の幹部の演説、政府の声明、大臣の談話などが、いかにもそらぞらしく、無意味なものとして重くるしく立ちこめていた戦時にあっては、私小説作家の正直な記録は、たしかに救いであった。」(「文学雑感」より) 戦中、公明正大に語られた大義の「言葉」がいかにいい加減で簡単にひっくり返ったか、という体験の下で、戦後の著者はこのような「言葉」を語る戦後の日本人に対する不信感を描いた作品を次々と書いた。人食裁判シーンで裁判所の人間全員を告発してみせる「ひかりごけ」のクライマックスは、「蝮のすえ」で敗戦直後の上海で軍の権力者だった男を殺してみせたと同様、一線を超えた告発の試みだといえるだろう。そういった視点でいうと、主人公の復讐を描いた「流人島にて」でも、エグイ復讐が遂行されることを指摘したい。 そして、これらの作品では当然ながら「私」が主人公であり、大戦中に軟弱な内面を吐露した私小説作家達による、暴力的な復讐として読めるのだ。しかし、もちろん著者はそれがあくまで紙の上での想像上での暴力だという軟弱な点も、そしてこの暴力と戦中の暴力の間に何の違いもないことを知っている。こういったモチーフが最も完成された「ひかりごけ」において、かえって「私」がこういった暴力から超越的な語り手として存在していることは興味深い。(劇中劇としてこの小説を書いたという手法は、「苦肉の策」だったと作家は作品中で告白している。) 武田泰淳は超一流の批評家だったが、作家としては「超」がつかない一流だったのだと僕は思っている。その紙一重はとても大きいが、それでも十分、彼の作品は今の時代の僕らを撃ち続けている。
9 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
野火と読み比べてみて,
By みるく "ごくごく" (横浜市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: ひかりごけ (新潮文庫) (文庫)
とても面白い本だと思います。特に、この中で出てくる校長先生のキャラクターには忘れがたいものがあります。しかしこの本に関心を示す人であれば、是非に(まだ読んでなければ)、大岡昇平の『野火』も読むべきだと思います。扱う問題の種類としては、大岡の先を行く興味深さはありますが、『野火』の文章が持つ迫真力には及ばないようにみえます。 それでも、やはり節目、節目に思い出されるべき重要な作品であると思います。
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