崎谷作品での昔ながらのシリーズの完全書き下ろしという分厚いこの本。
シリーズとしては何冊も出ていますので、きっとこの本を買われる方は、これまでのシリーズを読破している読者が殆どだと仮定して……
話の本筋は記憶喪失そのものというよりは、二人の関係のありかたをどう捻るかってことだった気がします。
つまり二人の関係をもう一度最初から見つめ直すことができれば記憶喪失じゃなくてもよかったのでは?と中盤以降は思わざるをえない感じでした。
慈英が臣に関する記憶だけをなくしてしまい、他人行儀な態度に臣が傷つきながらも二人の元あった関係を忘れよう、東京に帰った方がいいと慈英に勧める。
どこまでも慈英をたてる臣と、そんな臣を他人と認識しながらも完全に他人行儀になれない、なっても罪悪感がつのる慈英。
片方の記憶が飛んでも関係を築くことができるのか、新たに築く関係は前とリンクしているのか、などなど、いろんなテーマがこのエピソードには潜んでいます。
近所の女性の事件を絡めて、記憶がない上での嫉妬があったりと、潜在意識で臣を好き、忘れられない慈英が、でも自分の実際に感じる感情だけに忠実に行動し、それが臣には辛い結果となる……悪人はいないけれど、悲しい結果にしか辿り着かない。
そんな読者がひやひやする展開はぐっと世界に引き込まれます。
……が、すこし長すぎだったかもというのが正直な感想。
丁寧にお互いの気持ちの変化が綴られているといえばそうなのですが、逆に細かすぎというか、同じ状態がずるずる続く中だるみも感じられたりしたのも事実です。