オフィス設計は、人材育成と密接に関係している経営マターです。しかし、この分野において指針になるような考え方の「軸」は混乱を極めているのが実情ではないでしょうか。
・たくさんの人を結びつけることによって仕事ができる人と評価され、その上で適切な判断ができると場の空気を読める人として重宝がられます。さらに、先述したワークダイバーシティーが高まっていくなかでは必ずしも同じ時間、空間でチームのメンバーが働くとは限りません。(p71)
仕事のありかたは、現代のネット社会においては、ますます複雑になり、あるべきオフィスの形はどんどん変化していくでしょう。だからこそ、出来る限り普遍的な、オフィスを考えるときの「軸」の必要性が高まっているともいえるわけです。
本書『はたらく場所が人をつなぐ』は、場所や時間が異なる従業員が、お互いに情報・知識を共有し、職場の「つながり」を形成するという軸によって積み上げられた研究成果を開示するもので、人材育成担当者はもちろん、経営者こそ読むべき本に仕上がっています。
本書の大切な特徴は「オフィスをつくる」という視点に入る前に「オフィスを考える」というところを大切に、深く扱っている点です。そこに多くの気づきがあります。
・「与えられた環境で」「ルールに縛られて」働くということと、「自分で選んだ環境で」「自由にしつらえて」働くということの違いが、そもそも居場所や居心地に影響を与えているのではないか。私はそう考えました。(p17)
すぐに実務に使えるという意味では、本書(p28、p135)で示されている知識創造理論をベースにして、オフィスを9つの空間に切り分けるフレームワークが非常に有益です。この9つのセグメントを参照しながら、自分たちのオフィスを観察すれば、どこに問題がありそうかが、よりクッキリと見えてくるからです。
ただし、この9つの空間について考えるときに注意したいのは、著者も本書で強調しているとおり、これら9つの空間が全てそろっていなければならないということではありません。あくまでも、オフィスを考えるときの網羅性を支えてくれる1つの有用なフレームワークとしてとらえることが必要です。
前提となる理論的背景をしっかりと語った後に、本書がたどりつくのは「コプレゼンスワーク宣言」として示される4つの「軸」です。
1.相手を"情報"ではなく、仲間として理解する。
2.いつ・どこでも気軽に「チーム意識」でつながる。
3.メンバーの立場を「わが事」のようにまわりに語る。
4.さまざまな経験を分かち合い、仕事を進化させる。
これらの「軸」の詳細は本書に当たっていただくとして、これらを実務に使えるより具体的な視点として落とし込んだフレームワーク(p125)は、とにかく立ち読みでも見ておくべきものだと思います。
本書はオフィス設計の解答を示すものではなく、その前提となる考え方にフォーカスした本なので、即効性はありません。しかし、ここを飛ばしたままオフィス設計を実施すれば、せいぜいが「無難なオフィス」か「奇抜なオフィス」が出来上がるだけで、成果が出るかどうかは運任せとなってしまうのではないでしょうか。