題名に反して、また大学の教科書を想定して作られた体裁に反して、生命倫理に「はじめて出会う」ための本としては非常に不適である。執筆陣の名前を見てもわかる人にはわかるだろうが、主流派の生命倫理に対する批判の書物だからだ。
確かに功利主義や自己決定権本位の主流派の生命倫理の欠陥を痛烈に突いた内容も少なくない。「安楽死・尊厳死」について、推進論の影にある問題点を鋭く指摘する、などだ。だが、本書の内容の多くは、医療現場での倫理的指針としては役立たないものが多い。たとえば「医療資源の配分」の章で書かれている提案―できるかぎり多くの人を助けることに努める―を医療現場でまともに実行しようとすれば間違いなく破滅的な事態を招くだろう。そういう意味でも、本書の姿勢は「政権を絶対取ることの無い野党」からの意見と言わざるをえない。
主流派の生命倫理を一通り学んだ学生が、批判的姿勢を培うためにいわば「セカンド・オピニオン」を求めるというのなら、平易に書かれているし有意義な本だと思う。だが、本書で生命倫理に入門すればまず偏った立場になる。決して教養課程「生命倫理」の教科書になど指定してはならない書物だろう。