伝統の技術を現代に伝えるとか、そういう職人じゃないんだ、この人は。
原田進、小林澄夫、久住章という日本の左官の代名詞みたいになった人たちのはるか後ろから、この人がどうやって今日の階段を上ってきたかがドラマチックに描かれている。
仕上げとしての左官は湿式といわれ、クロスなどいわゆる乾式に駆逐されていた。近年でこそ、健康志向で見直されているとはいうものの、基本は建築業界。ゼネコンの仕事だと何百平米というコンクリートを塗ることもあるらしい。
腕はあっても1平米いくらの下請け仕事にはじまり、父親の会社でも2代目というだけで上司の理解を得られず理不尽な仕打ちをうけるくだりは歯ぎしりまで聞こえてくるようだ。それでも、土壁に目覚め、何人かの職人や支援者との交流の中で機は熟していく。
塗り壁の今日的な意味とか世間の評価とかでなく、今を生きる職人とはこういうものだという力強さがあった。