平安時代から江戸時代にかけての妖異譚が六つ。「ねむり姫」「狐媚記」「ぼろんじ」「夢ちがえ」「画美人」「きらら姫」。澁澤龍彦の小説のなかでも殊に魅力的な『高丘親王航海記』(1987)や短篇集『うつろ舟』(1986)に先立って1982年〜1983年(昭和58年)にかけて書かれた、これも実に魅力的な作品集。
「ねむり姫」の、ひたひたと満ちてくる“水”。「狐媚記」の、夜光る“狐玉”。「ぼろんじ」の、小さな“節穴”が遠眼鏡になり変わる不思議。「夢ちがえ」の、他人の“夢”を吸いこんでしまう頭の中の匣(ハコ)。「画美人」の、画中の唐様美人の馥郁たる“芳香”。「きらら姫」の、北斗の七つ星を舟に見立てた“星舟”が夜空を翔る件り。いずれも、妖しいエロスが匂い立つ話の中に、宝石の如く美しいイメージがきらりと輝いていたのが素晴らしかったなあ。
わけても気に入った作品は、一点で結ばれるふたつの線に妙味を感じた「ぼろんじ」(“虚無僧”の意)と、江戸時代のタイム・トラベルを綴った「きらら姫」。どちらの短篇も、途中から意外な方向に話が逸れて行く・・・、その逸れて行き方が素敵だったのが印象に残りました。