岩波書店から出版され、600ページのボリュームをもつ学術書ですから、読むのに時間がかかりましたが、記載内容の多彩さと奥深さ、そして浮かび上がる事柄の一つ一つが知的好奇心を満たすものでした。また特攻隊の手記は涙なくしては読めません。
筆者の大貫恵美子氏は象徴人類学がご専門で、ウィスコンシン大学研究専任教授でありアメリカ学士院正会員です。
今も花見で賑わう城跡に桜が意図的に植えられたのは、国家ナショナリズムの重要な形成期である日清戦争直後からだそうです。満州や朝鮮といった植民地に桜を植えていったことも日本のシンボルだからで、その意図を明確に説明しています。
日本の花「桜」が、近代国家のナショナリズムを形成する過程において、軍国主義を象徴するイメージとしていかに形作られていったかを歴史的な事象を丁寧に説明しながら解き明かした過程は見事でした。
「花は桜木、人は武士」と江戸時代から言われていた言葉を受け、「若くして死ぬからこそ美しい人生」であり、そこから「若い兵士が桜のように散る」というイメージを齎したかがよく理解できました。
内容は、桜の花と生と再生の美学、もののあわれの美的価値―咲く桜から散る桜へ、仮想の世界の美と桜―自己と社会の規範を超えて、文化的ナショナリズムと桜の花の美的価値、天皇の二つの身体―主権,神政,軍国主義化、桜の花の軍国主義化―桜の花が戦没兵士の生まれ変わりになる過程、国土の象徴としての桜の花―民衆の軍国主義化、「運命を選ぶ自由」―特攻隊の成り立ち、特攻隊員の手記、国家ナショナリズムとその「自然化」の過程、グローバルな知的潮流を源泉とする愛国心、幹を曲げられた桜、注、引用文献、付録―特攻隊員4人の読書リスト、索引、となっています。