自分の中身が空っぽだと自覚する二十歳そこそこの女性が、
人を貶めることを厭わないイケメンの「嘘」にのめり込む話。
と書くとわかりづらいんだが、「自分が人に影響を与えてきた」と自覚する、
特異なオーラをまとう無敵のイケメンに対して、
「若さだけがとりえ」と現実的な自己評価をする「平凡な」女子がどのように付き合っていくか描かれている。
世の女性たちのハマりがちな「自分磨き」などに精を出す前に、
23歳までに人生が決まる、と自分の凡庸さを理解し、
客観視してるこの女性こそなんだかそらおそろしい存在だなと思いながら読み進めると、
最後はやはり形勢が逆転するのである。
読んでいるときは女性のドロドロした感情と、
イケメンの卑劣さの応酬で不快なキモチだったのだが、読み終えて一日経つと、
これは一種のふつうの女性の上京物語だったのはないかと思った。
男女の恋愛(のようなもの)が物語の表部分にはなっているのだけど、
ここでは、女が地方で実家暮らしをしていること、
男が東京で大学生をしている設定こそが重要なポイントである。
地方対東京の二項対立がそのまま男女関係になぞらえている。
女が上京するところまで、終始、男優位に進んでいるように見えて、
最終的にはそうでもなかったわけで、全体を俯瞰してみると、女の軸のブレていないことがわかる。
それが、ちゃんとした両親との関係だったり、務めていた運送会社での働き方などにも表れている。
ブレずに生きることはじつはとってもむずかしい。
尖って生きるか、鬱になるしかどちらかしかないような
若者の生きづらさを書いてきた本谷有希子の別の側面を垣間見た気がした。
彼女の本を読んだあとの疲労感はいつものことだが、本書には小さじ一杯分の爽やかさがある。