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映画の黄金時代を看板女優として過ごした人だから、当時のエピソードにはこと欠かない。小津安二郎、黒澤明、木下恵介といった人たちのエピソードをざっくばらんな女優らしからぬ(誉めことば)文章でつづっている。
高峰秀子は、今は亡き淡谷のり子と冬の北海道の、オンボロの映画館で歌謡ショーの実演をしたことがある。見物客はオーバーコートにゴム長靴といった重装備だが、淡谷のり子は例の肌もあらわなロングドレス。スタッフの苦肉の策で、小さな七輪に炭火をおこし、その上に四角い炬燵ヤグラのような木枠をかぶせ、そこに股火鉢のように淡谷のり子がまたがり、ドレスの裾でヤグラをおおう。幕があくとこの状態のまま、彼女は悠然と眉ひとつつ動かさず、みごとに歌を歌いきったという。淡谷のり子という歌手のご面相と容姿を少しでも知っている人なら、このエピソードのオカシサは十分おわかりいただけると思う。さらにここに淡谷の津軽弁が挿入されると、哀しいやらおかしいやら。やはり女優は耳がいいので、人のしゃべりことばを文章にひろいあげるのがうまい。
おわりに自分自身で書いた「私の死亡記事」を収録。「高峰節といわれた達意の文章で随筆集を重ねてファンに応えた」とお書きだが、それを驕りだと思う人は、少なくとも読者のなかには一人もいないだろう。
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