「たけくらべ」がいちばん好きです。大人になる前の年齢の主人公たちが活き活きと描かれていて楽しく、でも同時に人生の宿命のようなものをひたひたと重く感じさせる物語。原文がとっつきにくい、難しくてダメ~という方は、「ガラスの仮面」という漫画に出てくる「たけくらべ」の章を読んで物語の全体をつかんでから、原文を読むことをお勧めします。そうすると話は分かってるからスッと入れるし、同時にここぞという場面で一葉の文章がどれだけ簡潔にしてイメージ喚起力豊かかがよく分かります。特に最後のあっさりした運び。主人公たちがまだ大人の世界に入る前の年代なので、あきらめるしかない運命の物語にも、生活によって擦り切れ薄汚れた哀感ではなく、凛とした爽やかな切なさが残ります。
「にごりえ」。これは逆に、大人の男女があきらめきれず見極めきれず、迷い・恨みの哀感漂うお話で、やはり最後が見事です。どうしようもない感情を抱えながら、それぞれ毎日の生活を繰り返す男女。そしてあっけない、ひっそりとした結末。人魂というものが本当にあるように思えてぞくっとしました。