なぜか主人公は‘どんぶり君’という、一種の丼物であり、気づけば読者は自宅で錚々たるどんぶり調理に挑むという設定となっており――一読、あっけにとられる方もいるかもしれない。しかし、あとを読めば、なるほどと合点がゆく。
苛酷な現代競争社会で傷ついた老若男女のために、作者発案の‘どんぶりレシピ’が、手作りのあたたかさと、ささやかな人生創造の一端としてのどんぶり創作の喜びを届けてくれる。たとえ未来の自分図が描けなくとも、どんぶりを料理し食べることのできる自分をたしかめることはできる。すべて作者オリジナルの斬新なメニュー。そして、なんというあたたかな本であろう…!!
苦労を気取らない‘どんぶり君’が、じつは大変な苦労人であることは明らかだが、けっしてそれを面にみせず、彼は苦労しただけに血の通っている宝石のような言葉を炊き出し続ける。そして、私たちの孤独なこころに勇気というエネルギーをくれる。どんぶり君は大真面目であると同時に滑稽でもあり、自ら食されてしまうところもおかしいのだが、何より際立っているものは、ぎっしりと中身の詰まった‘銀飯のような’言葉のうつくしさであろうか。しかもそれは、嘘やまやかしの一切ない人生調理に関するレシピの言葉という気さくさで、このさり気なさが心にくい。各章を読み終えるたびに、私たちは泣きたいような笑い出したいような、しかし確実に明日への手触りを得ている自分を発見する。もったいなくて、全部を読み終えることが、本当に惜しい。
このような体裁の本は、これまで前例がなく、上記はなんとも説明になっていないのだが、本書を繰り返し熟読玩味するうちに、悩める現代人誰もが、いつか“自分だけの自分丼”を調理することができるような確信を得られる本で、これは本当に誰にもお薦めしたい名著であると思う。思いあまって、人生の休職中の何人かの人に贈った。