俄かに敗戦を実感出来ず、呆然と立ち尽くすドイツ選手達。
また、完全にうなだれる者達。
開催国であり、絶対王者であるドイツの威信を砕いたアジアの
小さな国の小さな娘達。
ドイツの選手から見れば、日本の選手達の姿はまるで少女のように
映ったであろう。こんな小さな女の子に負けるはずがない。
そう自負していた、彼女達の抱えたショックは我々日本人には到底想像も
出来ないほどの重みがあったであろう。
ピッチにうなだれて、呆然と動かないドイツの選手がいる。
そこへ、健闘を称えあう為にひとりそっと歩み寄る岩淵選手。
途中出場したにも関わらず、無念の途中交代をさせられた岩渕選手。
彼女にも、色々思うところはあるだろう。
少し離れたところで、日本選手達が歓喜しているサークルがある。
かなり俯瞰した位置からのこの写真が、この写真集の中で最も美しい。
そう、これはドイツでの激戦を戦ったなでしこ戦士達の試合中は勿論、
ベンチ、ロッカーでの写真を集めた写真集である。
従って、各試合の詳細レヴューやデータ、もしくはエッセイめいた文章は巻末に
ほんの少し、それも加部究氏の文章が飾ってあるだけである。
アメリカを本拠とするゲッティ・イメージが、そのパブリシティの全権を掌握した
この大会で、日本の数少ないメディアが追いかけた、この夏の彼女たちの
姿は美しくも、力強い。
加部氏の文章にもあるが、サッカーの女神は、絶対王者であるドイツや世界王者の
アメリカではなく、パワーもスピードもなく体格も小さく、だけど、ただひたむきで純粋で
しかし魔法のようにプレスをかける瞬間、ピッチにいる10人がスイッチが入ったように
動き出す小さな魔女達に微笑んだ、という事なのだろう。
そう、出場国の中で、彼女達だけがそれを出来た、のだ。
それが出来た、という事だけでも優勝の価値があるが、その上、彼女達は
真摯で笑顔で、疲れなくて、相手国選手への気遣いを忘れず、
全てのサポートしてくれた人たちへの感謝の気持ちを、淀みない心で
最後まで世界へ発信し続けたのだ。
日本人には想像も出来ないほどのサッカー大国、ドイツ。
その国民とドイツ代表監督(シルヴィア・ナイトやドイツ代表選手すらも味方に付けて
アメリカに挑んだのだ。
優勝の栄冠は当然の結果である。
だからこそ、2万6千人のホスト国ドイツ陣サポーターが負けたにも関わらず、
なでしこ達へ惜しみない祝福の拍手を送ったのだ。
決勝戦では時たま「USAコール」が叫ばれたが、殆どがなでしこへの声援、
しかもアメリカ人を除く、全ての人達がなでしこ達を応援してくれたのだ。
フェアプレー賞も受賞したことをもっと報じてもらいたい。
だから、あの輝くばかりの笑顔なのだ。
一点の曇りもない、まばゆい笑顔。
あの瞬間、世界で最も美しい人達がここにいる。
この写真集ではその魔法の時間の一瞬を垣間見る事が出来る。
余談だがネット上で、ある選手の飲み会での彼女の発言をツイッターで中継し中傷した、と
話題になっている。
それをした大学生への批判が殆どだが、所詮、その程度の人間だった、と諦めるしかない。
大学生にもなって、そんな事をしていいのか、悪いのか判断がつかない、人間だという事だ。
別に犯罪をしたわけでもない。批判すること自体が無駄だ。下らない人間に関わる事は時間の無駄。
彼女のフランクフルトへの、旅立ちを祝福し、あのチャーミングな笑顔にエールを送ろう。
ドイツ・ビルト誌ネット判で彼女は「何と勇敢で、何と気高く、何と美しい日本女性」
と評されたのだ。ドイツ人はきっと彼女を暖かく受け入れてくれるだろう。
彼女はPKを蹴る直前に天を仰いだ。心に何かを留めたのであろう。