作家、ギャンブラーであると同時に、無類のエンターテインメント(映画、舞台、演芸)通
でもあった色川武大氏による、忘れ得ぬエンターテイナー(野球選手、相撲取りも)たち
に関する慈愛に満ちた36編のエッセイ集。エノケン、ロッパ、金語桜など、誰もが知る
人物も含まれているが、ほとんどが、現在では名前を忘れられているような人物を取り
上げているのが、色川氏らしい人選だ。
自身、少年時代から、社会のメインストリームからはずれた「はみだし者」だと自覚して
いたという色川氏だが、本書に取り上げられる人物たちも、まさに、「はみだし者」たち
ばかり。子ども心にも、そういった人物たちの姿に、自分と同じように、人生を渡って行
くあぶなっかしさを感じ、気にせずにはいられなかったというだけあって、色川氏の彼ら
に対する視点と筆致が、ひたすら温かい。そして、そういったエンターテイナーたちの姿
を通して、生きることの哀しさのようなものも滲む。色川氏にとって、彼らは親しい知り合
いのような存在であり、さらに言えば、自身の分身でもあったのかもしれない。
二村定一、団徳麿、杉狂児、小笠原章二郎…から果ては式守伊之助まで、現在では、
ヴィデオなどでも、実際に活躍ぶりを観ることが難しい(もしくは出来ない)人物たちの描
写に、読むほうも、いつしか、彼(彼女)らに愛着が沸いてくるのは、ひとえに、色川氏の
愛情溢れる洞察と確かな筆力の賜物だろう。読後も、何度でも読み返し、彼(彼女)らに
再会したいという気持ちになる。
「この脇役知っている?」的な知識のひけらかしのような書は数多あるが、そういった類
の書の持つ無味乾燥さやいやらしさとは無縁の、温かく血の通った一冊だ。色川氏のよ
うに、少年期からの体験があって初めて書くことが出来る、唯一無二のエンターテイナー
に関する書だと思う。