「BSE(牛海綿状脳症)」は牛の病気であるが、そのほかにも似通った症状を引き起こす病気がある。羊や山羊でみられる「スクレイピー」、人間に感染する「クロイツフェルト・ヤコブ病」、かつて東部ニューギニアで流行した、経口感染症(死人の肉を食う風習に関連)と思われる「クールー病」。これらに冒されると、神経系統が破壊され、歩行が困難になり、けいれんが起き、やがて死に至る。そして、脳がスポンジのようにスカスカになってしまう。人類は、これらの原因である姿なきウィルスを3世紀もの間追跡してきた。そしてついに「敵」の本当の姿が明らかになりつつある。「敵」の正体はタンパク質「プリオン」であった。プリオンとは細菌でもウィルスでもなく、プリオンタンパク質自体が感染性病原体であるという特殊な性質を持っている。
本書では、このプリオン病の追跡と「敵」による反撃の歴史を年代順に解説している。ルイ15世の統治する18世紀までさかのぼり、科学者たちの功労を冷静に客観的に説明しつつも、まるで推理小説のように読む者をひきつける語り口である。
現在、われわれに直接関係するクロイツフェルト・ヤコブ病は、恐怖そのものとなっている。致死性の難病であり、中枢神経を冒し、人格を奪い、意識そのものまで奪ってしまうからだ。感染経路すらわからず、自分がいつ感染するかもわからないという不安に立たされている。
しかし、著者はこう警告している。「パニックに陥らないためには、自分の耳に届く不安に満ちた情報を理性的に判断する必要がある。すなわち、いささか謎に満ちたこの『敵』について、もう少し知識を深め、この病気がどこから始まったのか、どのように感染するのかを理解すればいい」
「『敵』はまだ打ち負かされていない」と著者が言うように、BSEに関しては未知な部分が多い。だからこそ、われわれにできることは、まずは知識を深めることなのだろう。本書がそのために役立つ1冊になることは間違いない。(冴木なお)
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最も参考になったカスタマーレビュー
5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
真摯な内容に感銘,
By カスタマー
レビュー対象商品: なぜ牛は狂ったのか (単行本)
非常に高度な内容を語りつつも、実に読みやすい。複雑多岐にわたる「プリオン病」研究の苦闘に満ちた来歴と成果、そして未解明部分を、医学、獣医学、分子生物学、遺伝学など各分野の様々な学説を解説しつつ、率直かつ真摯に提示する。とかく情緒的な不安や憶測が先行しがちなBSE(いわゆる狂牛病)やvCJD(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)のリスク判断についても、著者の「理性の目」から眺めると、少々違ったものに見えてくるから不思議だ。ジャーナリスティックな関係書籍の出版が相次ぐ中、専門家の視点に徹した本書の内容は新鮮ですらある。とにかく、著者の真摯な姿勢に感銘大である。
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