ほとんど意見を差し挟まず、公判で明らかにされた事実のみを著者は淡々と記述していきます。
著者の他の著作に比べて、「取材」という面では物足りない印象を受けますが、小倉少女監禁事件とそれに付随する一家殲滅事件の、他に類を見ない残虐さは、この抑制された筆致でも十分に伝わっています。
読者はただ「人間はここまで残虐になれるのか」と驚きながらページをめくることしかできません。
「知能犯と凶悪犯は一つの人格に同居しないと、長く信じられてきたけれども、それは幻でしかないことを思い知らされた」
という著者のメッセージにあるように、長年犯罪を追いかけて人間の精神の深淵を覗こうとした著者ですら、本事件の残虐性には驚きのあまり語るべき言葉を若干見失っています。
それほど、松永太が被害者を精神的に追い詰め、肉体を虐待し、家族同士に殺し合いをさせ、家族同士で遺体の処理をさせる様子は、一切の感情を挟まない冷酷さと見事なまでに自分以外のものを従属させていく能力に驚き、不謹慎ながら生半可なクライムノベルの主人公以上に、「人間心理の弱さ」を知り尽くしていると感心すらしてしまいます。
ここまで複雑な事件の再発を防ぐ手立てはあるのでしょうか。