ノーマン・メイラーの本が岩波書店から出るというのは意外です。普通なら新潮社でしょう。署名も「なぜわれわれは戦争をしているのか 」などと”ベタ”で食趣が湧かないですが。80歳の時の作品ですね。アメリカ合衆国で発生したテロ事件2001年9月11日の昼から始まる全130ページの小冊子です。第一部はIX・XI(=9・11)という章から始まります。ローマ数字で表すと9と11は裏返しになります。呪術的と言いたいのでしょうか。ローマ数字の I は羊を表していますから、その辺の含みもあるのかもしれません。右を向いた羊と左を向いた羊との対比をキリスト教とイスラム教との対比に置き換えているのかもしれません。ノーマンメイラーの句は一句一句重みがあっていちいち納得させられるのだけれど、圧巻は、モスリムについてのでしょう。ユダヤ人の両親ですが本人はどうやらユダヤ教徒ではないようです。ユダヤ、キリスト、イスラムとは愛憎相食む関係ですから、無視できないことかもしれませんが、あまり宗教的に矮小化するのもよくないでしょう。テロと同時にアメリカ全国民が国旗を振り始めた異常な高揚や、「死のカルト」とモスリムを称した知識人たちに警句を発します。問題は、こちら側にあるのだと言います。ノーマンメイラー独自の深層心理をも含ませた表現は強く心を捉えます。