「鬱病が急増している」、と言われる現状を、臨床医の著者がある種のタブーを破りながら分析した本。私も鬱病経験者(現在も定期通院中)だが、この種の本は精神科医側から一方的に述べたものが多く、それに比べ客観的分析がなされていると思う。
著者によれば、所謂古典(典型)的鬱病は増えておらず、非定型的鬱病と言うタイプが目立ち、若い世代が多く、長引く傾向にあると言う。これは従来、不況、終身雇用撤廃、グローバル化による競争の激化などで、ストレス・不安が堪ったせいだと指摘されてきた。確かに、統計的に見ると1999年〜2005年の間に鬱の患者が二倍に増えているのだが、これは上記の原因では説明出来ないと述べる。著者はこの1999年と言う年に着目する。確かにバブル崩壊後の年だが、この年はSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)と言う抗鬱薬が日本に導入された年である。そして、非定型的鬱病患者の急増とSSRIの売れ行きには正の相関関係があると言う。オカシイ。本来なら負の相関関係になければならない。ここで、製薬会社の啓発活動に焦点が当てられる。「「鬱」は病気だから、早期治療が必要」と言う論理である。これにより、軽い鬱気味の方にも新薬を与える事によって、患者数が急増したと言う構図である。早期治療は確かに必要なのだが...。
私も療養中、(説明を受けた上で)種々の薬を服用したが、新薬のテストと言う意味もあったかもしれない。義母の胃ガン手術後の抗ガン剤の使用においても同様の問題があった。製薬会社や医療機関に対する信用問題に係るので、慎重な議論が必要だが、本書は臨床医としての実感を語ったもので、信頼感を覚える。