わたしが初めて読んだ大人の本。
航海中の壮絶な体験が記されているわけでもない。「私」が航海で経験したこと、感じたこと、思ったことが自虐的ですらあるのに決して下品にはならないユーモアで描かれている。ところが、俗物的な人物のように書かれている「私」は突然詩人になり、その想いを叙情的に語り始めたりする。そのギャップが北杜夫だ。
そして、リアルだとか、臨場感溢れるといったことを主題とした紀行文でないにも拘わらず、「小説家」北杜夫の瑞々しい文章によって、その情景が次々に目に浮かんでくる。50年近く前に書かれたこの作品が現在に至るまで読み継がれているのは、この文章があるからだろう。
私が初めて読んでからもう25年以上が経過している。海外旅行は一般的ではなかった時代だったので、全く知らない「異国」が書かれたこの作品を何度も繰り返し読んだ。そして、今でも時々読み返すことがある。