この本に初めて眼を通したとき、自分の中でどういう風にこの本を位置づけて良いのかかなり迷い、落ち着かない気分になりました。というのは、私自身がサポートセンターで働いていた経験が長く、著者が電話越しにぶつけられた感情とか、あまりにもリアルに自分に迫ってきたからです。
著者も正しく指摘するように、IT系のユーザーサポートというのは、既存のシステム(コンピュータやインターネット)の歯車から排除された人が、コンプレックスを抱えて、怒りやプライド、あるいは卑屈さをぶつける場所。そして、オペレーターもまた歯車の一部ではなく、取り替えを前提としたヒューズとして使われ、そしてゴミとして流される。電話相手の感情を処理するバッファがない人は、さっさと自らやめていくか、そうでなければ、感情的に壊れてしまうしかない。
ただ、他のレビュワーも指摘しているように、その論調は既存の格差社会論などと根本的に違う。自分たちは一方的に被害者である、といった他罰的感情に流されることが全くない。それどころか、違う立場の他人の生活や感情も含めた、客観的に正しくて、そして暖かい、健全な社会的想像力の裏付けがあるところです。そして、その想像力が、自分の日常に根ざしているところ。この点に関して言えば、他の社会学者や格差社会論者たちを、はるかに凌駕してると思います。
・・・といったことを思って読んでいたのはたぶん、私の職業病のせいなのでしょうが、最初ちらちら見えるだけだった著者の変態的妄想がどんどんエスカレートしていって、そんな社会的視点など、読んでいるうちにどうでも良くなっていきました(笑)。彼の変態さは、けっこうセンスがよくて好きだと思います。いや、センスが良い悪趣味なんだけど。フロイト的に言えば、肛門性格ってことになるんだと思います。また、彼の軽妙な文体も、かなり読ませる力があります。
惜しむらくは、個人的経験に根ざした社会分析みたいなものと、妄想みたいなものと、どちらかに特化した「作品」を作っていった方が、全体としては完成度がずっと高くなったんじゃないかということ。そのあたり、ちょっとどっちつかずの印象はありました。いずれにしても、著者の今後に期待して、★4つとします。