一作目の"追憶”が映画化されると言うことも意識して、前作の裏話として書かれたのかな?と、上巻を読み始めた頃は思っていたのだが
読み進める間に、すぐに千々石武夫と言う主人公の、一作目とも二作目とも違う物語に引き込まれていった。
この下巻では、いよいよ敵国との戦力差が逆転し、読んでいて胃のキリキリする様な戦況へと突入する。
ファンタジーである架空の空の戦いを書いてきた作者は、巻を重ねるごとに描写や文脈が、語彙と共に精練されて来ているが、
数百の戦闘機に追われ、数万・数十万単位で人の命が散って行く、この壮絶な中央海戦争を舞台に、今作はより一層読み応えのあるモノに仕上がっている。
丁重に読ませて行き、手に汗握らせて来た所で一転、やりすぎとも言えるお馴染みのカタルシス。
二転三転しつつ見せ場も多い、太平洋戦争を再構築したかの様な、戦史モノ。
読み終えた時には、"追憶”よりもコッチを映画化してよ!と思ってしまった。
この下巻、また上巻も含め、ラブコメ要素はほとんど無い。
ヒロインとの会話や交流がほとんど無いのだ。
にも関わらず、そのヒロインとの恋や絆を、ここまで切なく描けるライトノベルは本当に珍しい。
前作"恋歌”シリーズでのラブやらコメディーを意識したテキストは正直、この作者には合ってないと思ってはいたが、
今作はパズルのピースがピタっとハマったかの様に、物語全てに作者の持ち味が活かされた様に思う。
一作目では元より、二作目の"恋歌”でも颯爽と空を制するヒーローであった海猫よりも、
このシリーズで、魔犬・千々石武夫という飛空士に呑まれてしまったファンも多かったのではないだろうか。良作。