いや、相変わらずこの人の漫画はじわじわと染み込む様な面白さがある。「さらい屋五葉」に続くオノ氏の2作目の和物連載
となったこの「つらつらわらじ」。作家買いで前知識なしに購入したが早速独自の世界観にずぶずぶ嵌り込んでいる。
絵柄は「COPPERS」以来のデフォルメ・オノ絵で描かれる和物語。設定は江戸中期、「質素倹約」を謡う松平定信の寛政改革
期に生きた備前熊田家藩主・熊田治隆少将の江戸への参勤旅物語。漫画で参勤をテーマにしたものは珍しく新鮮だ。
第1巻らしく多数の登場人物が出てくるが、藩主の治隆は勿論、彼を囲む六家老・大小姓達を筆頭に見事に個性が分けて描
かれている為、初盤の登場シーンを丁寧に読めば、重要人物の相関関係は割と容易く掴めると思う。
物語の中心の視点となって描かれるのが、六家老中の一人・熊田和泉。若干17歳にて熊田家の第二家老となったエリート。
しかし切れ者である反面、頭が堅いところが難点。今回六家老で唯一参勤の旅に同行するのだが、治隆の型破りな行為に
振り回され苦労する。旅先で彼を支える山和木や、御庭番として一行に潜り込んだ倉知九太郎改め九作等、和泉の周りの人
達との関わりを通し、苦手意識を持っていた治隆の核の部分を徐々に知ることになる。
同じ和物であり、「間」を活かし台詞の少なかった「さらい屋五葉」とは対照的で、オノ氏の作品にしてはかなり台詞量が多い印
象。しかも各地方の方言を含んだ言葉が多く含まれ温かさを感じる。本作を読んでまず感じたことは、各方言の言い回し、江戸
時代の藩内の役職システム等の知識について、執筆前に作者が徹底して勉強されている、という驚きだった。時代独特の堅め
の台詞表現等、読み始めは若干慣れない部分もあったが、読み進めるうちに馴染んでくると思う。
ここまで解説するとかなり堅い作品の様に思われるかもしれないが、随所に「くすっ」とさせるユーモアある場面を絶妙に織り交
ぜており、決して難解な印象は与えない。一番の見所は作者オノ氏の人間を見る視点の鋭さ・描写力の高さだろうか。デフォル
メ絵にも関わらず、ある種の威厳まで漂わせる治隆の存在感、和泉を中心に描いた六家老の人間関係の複雑さ、一見びしっ
と揃っている行列を整えながらも各思惑はバラバラな渡り中間達の現実感ある描写等、現代人にも通じる様な人間の根底のテ
ーマが流れている作品ともいえる。またコマ割りも独特で、突如見開きで治隆によるのダイナミックな筆書きの描写を挟んだり
と細かい箇所への拘りも楽しい作品だ。
まだ参勤の旅はこれからという処で1巻は終わるが、様々な伏線が既に用意されているこの作品、次巻も楽しめそうだ。