ここ数年、児童文学の定義について不毛な論議がくりかえされ、まともな批評が成立しないという不幸をかかえながらこの作家ほど刺激的な作品を発表してきた人はいない。
前作『まつりちゃん』(理論社)も岩瀬成子の新境地ともとれる印象的なものであったが、『オール・マイ・ラヴィング』(集英社)『そのぬくもりはきえない』(偕成社)と遡ってみれば、本著のみならずその文学性の高さと力量は疑う余地がない。
これまで児童文学の範疇で取り沙汰されることが多かったのだが、そのカテゴリーであろうがなかろうが従来の枠を突き抜けた小説を書くことのできる作家であることは間違いない。そのしたたかな創作意欲には、ある意味で凄みすら感じとれる。
本著『だれにもいえない』(毎日新聞社)は小学4年生という大人と子どもの境界に位置するきわめてデリケートな女の子が設定されている。登場人物は千春、その同級生である点くんに寄せる彼女の恋愛感情ともとれる特別な気持ちの変化と揺れがていねいに描かれている。
点くんをきらいになれたらな、と急に思った。きらいになったら、わたしは元どおりのわたしにもどれる気がする。だれにも隠しごとをしなくてもすむし、びくびくしたり、どきどきしたりしなくてもすむ。―本文より―
だが、それだけではない。この作品が比較的コンパクトな物語でありながら文学として成立し納得できるのは、野々山さんや叔母さんを取り巻くいくつかのエピソード、さらにクラスメートとの秘密の出来事を描くことによって、その物語に奥行きと厚みを感じさせ多面的な心情の移ろいと同時に独特のリアリティーを浮き彫りにするところにある。
まさしく、切なくて暖かい小さなラヴストーリー(帯び)であり、コンパクトで透明感のある素晴らしい作品となっている。
網中いづる氏の絵もきわだっていて美しい。
大人から子どもまで楽しめる良質の一冊、是非お読みください。