本書は悪徳商法を潜入取材し、キャッチセールス評論家の肩書きを持つルポライターとプロのマジシャンが対談により、だましの手法を解き明かす内容である。「まえがき」と「あとがき」を除き、最初から最後まで対談形式で進行する。
記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えなど)が隠された新築マンションを購入したという被害経験がある。本書で明らかにされた「だましの手口」は恐ろしいほどに記者の経験と重なるものであった。
例えば本書では「悪質業者は客に充分に考える時間を与えず、契約の決断を迫ってくる」と指摘する(157頁)。東急リバブルも「決算の関係」という名目を持ち出して記者に6月中の契約締結を迫った。
また、上手くだますためのテクニックとして「余計な嘘はつかない」ということが紹介される。「だます側が積極的に「嘘をつく」のではなくて、相手が勝手に思い込むことで、こちらが望む結果を示してくれればいい」という(147頁)。
これはまさに記者の被害経験にあてはまる。東急不動産はマンション建設後に隣地が建て替えられることを知っていたにもかかわらず、販売時に説明しなかった。しかし、トラブルになると東急不動産の担当者は「隣地が建て替えられないとは言っていない」と言い訳する。問題は東急側が隣地建て替えというマンション購入者が嫌がる不都合な事実を販売時に説明しなかったことであるが、「嘘はついていない」と論理をすりかえている。まさに本書で紹介された、だます側の論理である。
このような主張をする悪徳業者に対しては、消費者契約法の不利益事実不告知が消費者の強力な武器になる。記者も不利益事実不告知を法的根拠として売買契約を取り消した。
不利益事実不告知は業者が利益となる事実を告知しながら、不利益となる事実を告知しなかった場合に消費者に契約の取消権を与える制度である。これは一定の条件下で業者に不利益な事実を説明する義務を課したものである。これによって「嘘はついていない」という悪徳業者の言い訳を封じ込めることができる。
不利益事実不告知が悪徳業者への有効な対策になることが本書からも裏付けられた。本書では「絶対にだまされない秘訣」などはなく、「人は皆、だまされやすい成功を持つ」とする(158頁)。残念ながら悪徳商法の被害者がゼロになることはないだろうが、悪徳業者の痛いところを突いた消費者契約法が積極的に活用されることを期待したい。