日雇い労働者をしたこともないし、その実態を知らない者にとって、その仕事の仕組みやシステム、その生態を自らの体験を通して本書のように語ってくれるのは貴重です。幻冬舎アウトロー大賞(ノンフィクション部門)を受賞したということも理由のあることです。
筆者の塚田 努氏は、大学生や院生当時、社会学的な観点、まさしくフィールドワークの一環として山谷の実態に興味を覚えました。通常は、外からルポとして書くところですが、筆者はドヤ街に寝泊りし、手配師や紹介によって職を得て、実際飯場にも寝泊りして、半年間にわたり、様々な肉体労働の現場体験をしました。地下鉄工事や砂防ダム工事現場での作業体験はなるほど、そのような労働かと思わせるものです。帰る家がある、という安心感もあるのでしょうが、どこか、腰が引けているのは仕方がないことでしょう。もう少し掘り下げが必要だったかもしれません。もっともそうすれば、本書が世に出なかったかも知れませんが。
どこか風変わりで、愛すべき人たちが次から次へと登場します。山谷での飲み屋も様々な需要を満たしているのですね。ある種のアウトロー的な人物も出てきますが、大半は労働に対して、真摯で真面目な労働者ばかりです。酒を飲んで暴れまわるというステレオ・タイプ的な見方は的外れだったようです。本書はそんな偏見を払底する役割も果たしていますし、多くの人に読んでもらうことで、職業の貴賎に対する偏見が少しは減るかもしれません。
山谷は行ったことがありませんが、大阪では旧の釜ケ崎にあたる場所です。日本の土木や建築現場において、欠かせない人材供給場所として存在してきました。日本の繁栄を支えてきた労働者達も年をとり、過酷な労働で身体を酷使したつけがでています。大きな社会問題を含んだルポといえなくもありません。