近所のDORAMAの100円コーナーで売られていたところをなんとなく購入。
井上喜久子氏のオリジナル作品を初めて聴いた。
全ての曲で作詞・作曲を井上氏自身が担当したそうだが、
正直メロディラインはそんなに耳に残らなかった。歌声も普通の歌声で特徴がない。
然しながら、一見して子供向けの歌詞世界が独特だった。
たとえが分かりづらくて申し訳ないのだが、作風が川崎洋の詩に近いように思われた。
そして一見して子供向けの形式を取っているものの、中身は必ずしも子供向けではない。
詩の言葉は平易であるが、具体的で細かい事物が取り上げられている。それが聴き手の想像を掻き立てる気がする。
作り手である詩人の観察眼の繊細さが窺える。
以下に一部の曲の概要を述べる。
『夏はうきうき』は夏休みの楽しさを只管具体的に謳った歌である。
プールの帰り道に握りしめた10円玉でアイスを買う、という下りが心に残った。
10円でアイスが買える時代、というのは一体いつの時代なのか……。
『とりあつかい説明書』は、取扱説明書それ自体、および取扱説明書を読まねば使いこなせない機器に寄せた歌で、
現在のスマホを使いこなせずにいる人にそのまま当て嵌まると思う。
「ページを開くだけで こころが閉じる」「ためしに読んでみりゃ 荒波に旅立つ 小舟の気持ち」
というフレーズが妙に断定的でドキッとさせられる。
『でんぐりがえり』は、とある動物園の園長がでんぐりがえりをしたところ、
その行為が只管拡散していった、という内容の歌。シュール極まる。
メロディは収録作品の中で最もキャッチーだが、それもどこかで聴いたような感じのメロディで、やはりあまり耳に残らない。
『いいね』は、ショートケーキを初めとして様々な事物を只管「いいね」と肯定する歌である。
「思い出し笑いのひとは たったひとりで笑ってるけど なにがそんなにおかしいんだろう 楽しそうだから いいね」
というフレーズにアカラサマではない微かな皮肉が感じられた。
思えば日本の通俗音楽界では子供向けの歌は子供向けのTV番組主導で作られる物が多く、
こういう私家版のアルバムに子供向けの歌がたくさん収録されるのは珍しいことなのではなかろうか。
バカ売れすることは決してないだろうが、それなりの需要はありそうな一枚である。
私個人は音楽性の面ではあまり感動できなかったけれども、繊細な歌詞世界には心動かされた。