和菓子の世界では珍しい(失礼)近江(滋賀)が本社の「たねや」さんの経営の根っこがわかります。特に「手塩にかけて、朝に夕に工夫する」ことを実際にコツコツ、コツコツと実践し続けてこられたからこそ今日があることに深い共感を抱きました。
前半は著者である山本さんの幸兵衛談義(世相寸評)で、百年に一度の不況も第二次世界大戦の敗戦のことを思えばたいしたことないとか、消費期限より自分の舌で安全を確認できる能力が大切とか、思わず膝を打つ話がちりばめられています。とりわけ気に入ったお話は、大切なのは資格ではない、仕事は資格より上にあるものという深い英知です。一生懸命仕事を突き詰めていけば、資格云々ではない上の次元の仕事になっていることを言外に語って下さっています。
そして、出色は後半第三章、これまで門外不出とされてきた、自社の社員向け「商いの心得」である「末廣正統苑」の解説です。近江の地で商いを続けることは、近江商人の考え方を受け継ぐことでもあることを正面から掲げることは素晴らしいと感じました。もちろん、自らが過ちを犯せば、この心得自体が砥石になって自らに向かってくるわけですから、その覚悟も感じられ、爽やかさもいただきました。
一節にある、「汗為し、汗為し、道を拓け」の心がけがあれば、バブルにも踊らされず、商いも人生も成功に導けると思います。この部分を味読再読するためにこれから何度もこの本を手に取ることになりそうです。公開に踏み切られたことに改めて感謝申し上げます。