昭和21年秋、満州の荒野を、たった独りで日本を目指して歩く少年がいた。
これは実話である。
主人公は日本人の父親とコザックの母親を持つ10歳の少年ビクトル。終戦後の混乱期、引き揚げ隊に入れてもらって列車で日本を目指すものの、途中で「ロスケのガキの世話なんかできるものか」と弾き出される。棄てられたのだ。
そこから日本に帰るまで、少年ビクトルの4ヶ月間、ハルビン〜新京〜奉天〜錦州の1000Kmを歩きとおす旅が始まる。
コザックの子供として裸馬に乗り、友人達との遊びの中でナイフの使い方、川の渡り方、食べられる木の実の採り方等、生きるすべを覚えていた。
そして何よりも日本語のほかにロシア語、中国語、トルコ語、朝鮮語等5カ国後をしゃべれることが心強かった。
野宿しながら朝起きると「神様、ありがとう」と、生きていることを実感し、太陽に「ありがとう、ありがとう」と呼びかけた。中国の兵隊達にも助けられた。煙突の煙でロシア人の家を探し、食べ物をもらった。
途中で、暴徒達に襲われ、惨殺される引き揚げ者達も見た。そして彼はその死体から靴をもらっても、死者の為に十字を切ることは忘れなかった。
日本の大人達は悲壮感にあふれ、下を向いていた。自分だけが大事で、弱い者をかばわず、人を裏切る大人達。敗戦で精神的にも肉体的にも打ちのめらされて、死んでいく人達を見た。
筆者は言う。
「死んだ人間よりも、生きている人間が恐ろしい」
この本を読んで、勇気をもらった。どんなに逆鏡にあっても、決して自分を捨ててはいけないと。