何年も前に原書を読んだ。今回、訳本の邦題を見て「ちがうな」と感じた。自転車の話じゃなくて。が原題なのに、この邦題はないだろう。日本では自転車ファンしか著者を知らないのでツールドフランスのヒーローだと示したくてこの邦題になったのかもしれないが、マイヨ・ジョーヌが何かを知っている人は著者を知っているだろう。
しかし、読んでみてあらためて面白かった。面白いというのがはばかられるほど深刻な話でもある。私の英語力では原書からは充分に読み取れていなかったのだろう。
まずは癌との壮絶な闘病記である。医師が生存率3%とも考えた癌からの生還。ただ医師まかせにするのではなく、母親、恋人、友人の力を借り、能動的に選択し、戦っていく姿。そんな著者でさえ吐き続け起き上がれなくなるほどの抗癌剤治療と手術。
そして、世界的スポーツ選手としてのサクセスストーリーである。激しすぎる気性、強靭な肉体、そして苦しみに耐える精神力。それは恵まれたものであったかもしれないが、いかに危ういものであったかも感じることができる。暴走させたカマロで、自転車レースの下りで、練習中の大型トラックとの事故で、いつ終わっていたとしても不思議ではなかったのだ。
母親や、恋人や、周囲の人との関係も描かれていて興味深い。これでも描いていない部分もあるのだろうが、エゴと感情むき出しに振舞った姿が取り繕わずに書かれている。
現れてくるのは人間像であり、半生記である。それは常人のものではないかもしれないし、現代の金満スポーツビジネスに毒されている部分があるかもしれない。しかし、父を持たずに生まれた一人の若者が、自分に与えられたものだけで、まさに命がけで闘った栄光の記録でもある。
原題を噛み締めたい。My Journey Back to Life. 小説なら馬鹿馬鹿しいかもしれない。が、実話なのだ。多くの人に薦めたい。少々厚い本だが、原作の平易な文章とメリハリの利いた構成と優れた翻訳のおかげでたいへん読みやすい。
ハードカバーも含めると多くの方がレビューを書いておられる。その受け止めかたも様々なのが、かえって興味深い。私は絶対☆5つ。スポーツ好きでもそうでなくても、若くてもそうでなくても、癌を患っていても健康でも・・・読む価値がある。