脳科学者・茂木健一郎が、読売ウィークリーに連載したエッセイの新書化。
日常的なことを綴っていくうちに、自然に脳の働きのことに結びついていく。
脳の働きと言っても、茂木健一郎の場合は、記憶力だとか、思考力だとか、
いう話には決してならない。もっと奥深いところで脳の働きをとらえている。
「もともと、人間の脳は退屈しやすいものである。いつも興味深い入力を求めている。」
「私たち人間の脳は、「より多く高価なものを」といった単純なる原理では把握できない
奥行きを持っている。幸せの方程式は実に複雑なのである。」
「空腹時のごちそうが格別なように「わからない」ことが「わかった」瞬間のよろこびは
天にも昇る気持ちである。そのような脳の中にある官能のよろこびを、私たちは忘れては
いないか。」
ここに引用した茂木健一郎の言葉は、無論、脳科学者としてのその研究成果を説いている
わけではない。
むしろ、このような原初感覚から、脳の研究に入っていったのだと思う。
街の中を走り回り、人より少しでも早く、目的地にたどり着くことが書かれている本は多い。
それに対し、茂木健一郎の本は、森の中で深呼吸をしているような感覚とでも言えばよいのだろうか。
一読してわかる本ではある。しかし何度も、読み返すに値する本でもある。
森の中で深呼吸をすることが、体と心と、そして脳に優しいように。