「会社とは誰のものか」.この問いに対し「株主」と答えるのに会社内の経営者・従業員にとって抵抗感があるのは想像に難くありません.本書は「株主が会社の全ての利益を総取りする」等と反発される株主主権論への誤解を解きほぐし,株主にオーナーシップがある訳を順々に説いていきます.
重要なのは「交換」「誘因」「希少性」等の経済原則を用いて株主主権下でも従業員や長年培われた取引関係等への正当評価がキチンとなされ得ることを説明している点.すなわち,企業は従業員・取引先が企業取引を通じて得べき交換利益について意を尽くしかつ自らの付加価値を高めるため従業員にインセンティブを与えなければそもそも生き残れない存在であることを判りやすく説きます.むしろ,コアな従業員が主導権を握る「従業員主権」型企業においても自分たちのポストを確保する為に無理な多角化を図る等経営資源の無駄遣いが有り得ることを豊富な実例を挙げて示しています.ここにこそ健全な経営効率化のためには外部チェックが必要で,そしてその任に当たるのは無配・倒産リスクを抱え,リスク軽減の為に経営者の解任権等を与えられた株主が相応しい理由がある訳です.もし経営への介入を株主に認めないならば,先に挙げたリスクをそのまま背負い込まざるを得ない株主のなり手が減るため, 「希少性」の原則により企業の株式調達コストが高騰してしまう事が説得的に論じられています.
株主,従業員,債権者等ステークホルダー間の関係がゼロサム関係ではなくもちつもたれつの相互依存関係にあることが良く理解でき,ともすれば観念的・感情論的に論じられがちな企業ガバナンスを実質的に議論する為に欠かせぬ1冊です.