読み始めると、いきなり厳しい現実が連記されている。その現実に直面しながら,事実と自己を客観的に把握し、記述した文章から,文野さんが明晰で芯の強い女性であることがうかがえる。また重い内容にも関わらず,文章はキビキビとして読みやすい。「それにしても、山口は良く料理をする旦那だ。」などと思いつつ、前半は割合に落ち着いて読める。
ところが,文野さんがうつ病を併発するあたりから、雰囲気が一変する。いくら客観視しても病気は他人事には成ってくれない。その凶暴さが次第に姿を現す。その後,新薬でいちじ病状が回復し、文野さんは教壇に復帰した。当時の文章には,現状を受け入れて生きる覚悟と,自分は何かを残せるのかという焦りが滲み出ている。そして病状は再び暗転し,その後は「ページをめくる度に、文野さんの終りをたぐり寄せるような」そんな切ない呵責を感じながら読み進めた。
本書は癌の闘病記であり,基本的には辛く悲しい話である。しかし,元々がブログなので,日々の細事が丁寧に描かれており,真直ぐな性格の二人が、お互いを思いやる気持ちが良く伝わってくる。ひねくれた評者には,二人の関係が眩しいばかりに輝いて見えた。
また,文野さんの意欲に応え,出来うる限りの手段を講じた大学関係者の思いも感動的だ。正直,『はじめに』を読み返しただけで目が潤んでしまった。情けない。
そして深い愛情で,文野さんの暮れゆく歳月に、全力で光を灯し続けた山口氏は,文野さんにとって最良のパートナーであったと思う。
きっと文野さんもそう思ってる。